呼吸療法認定士の後教員へ

大学院へ進学したきっかけ
●今以上に働きやすく呼吸ケアを実践できるため
私の呼吸ケアのスキルが認められて、
自分が人々に注目されてくると同時に葛藤がでてきました。
大学院へ行くことになった理由
集中ケア認定看護師の養成学校に合格しながらも事情が重なり
通学することが出来なかったことから、翌年、CNSとしてクリティカルケアナースに
なろうと考えました。その当時は、まだ日本に5校しかクリティカルケアコースが開かれていませんでした。
ところがデータを取っているときに思うような対象数が得られなく、結果が出せない、中途半端な結果に満足できなくなってしまいました。
そのため、もう少し症例を増やして頑張りたいと思い博士後期に進学、より研究をしたいために教員になることにしました。
研究をする意義
研究手法を身につけ呼吸ケアのエビデンスを増やしたい
肺を膨らませ楽な呼吸を提供したい
私の進学した理由であり、ずっと変わらないコンセプトです。
今も臨床へ戻りたいと思っています。調査で人工呼吸器(ベンチレータ)装着の患者に会えるのはどのような工夫をすることが患者環境を改善できるのかを考えられるため楽しいです。
認定士取得後のキャリア
さて、3学会合同呼吸療法認定士(呼吸療法認定士)になった経緯は書いたのですが呼吸療法認定士になってからどうだったのかといいますと、救急系ICUのあと、一旦、パートタイムの仕事に戻って就職をしました。
再就職先の選定基準は、呼吸療法認定士の資格を活かせられることでした。
「呼吸療法認定士であることを活かして働きたい。しかし、自分も勉強中なので勉強していきたい」と言って再就職しました。
最初は呼吸療法認定士になっても何も動けないでいました。
それは何をやったらいいのかも、わかりませんでした。
まだ世間は皮膚創傷認定看護師や感染認定看護師の活動が認められ始めたものの、まだまだ。。。
地方の田舎では、特に私のいたところでは、全領域を合わせて3人という認定看護師の数さえ少ない状況でした。
手探りの状態で、仕事を確立するためには何を学ばなければいけないのかも
わからない状態でした。
認定士になってからの勉強と仲間
いろいろな講習会やセミナーに行けるだけ行ってみました。
北は 北海道から南は大分まで、呼吸ケアに関連があるものは学会を含めて毎年出かけました。
呼吸療法のホームページを開催し、全国の呼吸療法認定士や呼吸ケアを行っている人たちとネットを介してON/OFFを問わず交流し、ディスカッションしていったところ、呼吸ケアに熱いコメディカルらのつながりとがんばっている姿に勇気づけられました。
事例の振り返りで得たもの
インターネットの掲示板で、臨床経験を丁寧に事例として振り返りを行っていきました。
そしたら、自分に何が足りないのかが見えてきました。
患者を看られるように、そして診断と治療と看護のバランスを考えることができるようになってきました。
しかし、それはたいへんなプレッシャーとなりました。
その当時は「こんな田舎の病院でも呼吸療法認定士は一人しかいない。私はこの病院の第一人者なのだ。」
と変に力も入っていて、「頑張らなくてはいけない。」と必至でした。
非公式でもコンサルテーション活動
いろいろな方から相談を受けるようになりました。
いずれも手の施しようがないのではないか?と思えるほどの事例ばかりでした。
その多くは、臨床のスタッフナースや医師がよかれと思って行ったケアや治療がマイナスに働いているのを何とかしてくい止められないかというものでした。
コンサルテーションで気を付けていたこと
病院で相談されたことは、すぐ答えるようにしようと努力しました。
前に働いていた病院の皮膚創傷認定看護師が
「うちの病院には、これがないからこの場合は無理ね」と言ったとき、
相談したナースは
「じゃあなたに相談する価値ないね」と思ったそうです。
友人からその話を聞き、
「私はそうはなりたくない。」と思いました。
その思い今も忘れていません。
自分がアセスメントした結果はすべてお話しし、その後2・3日以内にはA41枚から3枚ぐらいにまとめて文書を渡していました。(今読んでもよくわからない文章を書いていたなと反省しきりです。)
さらに根拠と参考になる資料や文献も添付していました。
コンサルテーションで得たもの 協力者
一つ一つの事例を丁寧に振り返った結果は
単に私の自己満足で終わってしまうのではなく、後輩を育て、
一人、また一人と協力者を増やしていけたことだと思います。
非公式ながらも数例コンサルタントした中では、
たった1例だけが自分が関わっている期間中に転帰が良かっただけでした。
コンサルテーションによる患者の転帰
1例以外は惨敗でした。(死亡または悪化して転院)
もともと呼吸ケアはエビデンスがあまり無い領域であり、経験則のケアが多いです。
呼吸障害は死亡率も高いため、一時的に良くなっても、転帰は悪くなることが多いので仕方がないと言えばそうなのですが。。。
結果が出ないことによる不安
私がアセスメントする事が本当に正しいのかどうか
不安で仕方がなかった時期もあります。
相談されるだけで、医師とディスカッションするだけでも
とてもストレスでした。
医師とコラボレーションすることは可能なのか?
新しい手法、ベンチレータのモードに対する熱いバトルもありました。
相手を納得させるための理論武装も学びました。
すぐに熱くなってしまって、目的とすることが通らないことも多々ありました。
そのために自分の苦手とするコンサルテーション論の必要性をすごく感じました。
エビデンスを得るための英語特訓
医師の協力を得るには、医師の治療診断技術を補助できるような文献を用意しなければなりません。
そのためには日本には、ほとんど入ってきていない
呼吸管理の治療の基本やガイドラインなど英語を読まなければなりませんでした。
英語は不得意なので、それが目的で英語の先生について学びました。
「あなたの実力では、最低でも3年はかかる。英文を6割読めるのではだめ、8割読めるようにならないと。」
最初に英語の先生が言ったことです。かれこれ20年以上かかっていますが、いまだに実力不足です。英語が面白いと思えるようになるにはまだまだ、英語にかける時間が足りないのでしょう。

助けてくれたDr、急死されたDr.T聴診器をありがとう
いつも私のことを気に掛けてくれていた何人かの医師がいて
論文の検索の仕方を教えてくれたり、自分の研究で図書館に行ったついでに
私のために論文をコピーしてくれたりしてくれました。
「おまえ!アブストラクトばっかりよんどったらいかんぞ!」
医師に聞かれて調べた文献を私は取り寄せることができず、
PubMEDで検索したアブストラクトをコピーして渡して、叱られたこともありました。
ある医師には、「これはこの間の学会では否定されていたよ。これは古い文献だ!」
でも私は、「古い文献かもしれない。でもこれ以上丁寧に書いてある文献はそうそう見つからないし、レジデントが読むレベルであれば十分に基礎的なことが書いてあると思うわ。ARDSネットワークの内容をそのまま日本語訳にしているものはまだ無いわ。」
チームで働く仕事において、これでもかと言わんばかりに叩かれることもあり、つらい時期もありました。
ココで呼吸療法認定士の仕事を将来も続けていきたいのなら、失敗は許されない。
結果を出さなくてはいけない。研究もやらなくてはいけない。
「後は任せるよ」何人かの医師に言われたとき、動けない自分を目の当たりにしました。
私の勤務中は血液ガスの値が良い、FIO2を上げなくても良い。「なぜ?」
責任に対するストレスに対応できるほどの、知識がなく、知識のなさに不安を感じずにはいられませんでした。
知識不足を補うために
何度も何度も本を読みました。未だにわからないところもあります。
本に載っているアセスメントをする指標はたくさんあります。
その中で簡便に使えて、周りのスタッフにわかりやすいものはなんだろうか。
その指標を活用できるには臨床の限られた時間とマンパワーではほど遠い状況です。
本のような指標やデータを全部そろえることは動いている現場においては、不可能なことが多いのです。
本当に使えるデータ指標って何だろう?と考えました。
呼吸生理学って難しい?体験が大事
簡単な呼吸筋力をはかる方法を説明する以前に
深呼吸を上手に指導すること、深呼吸の生理学的な意義がわかっていませんでした。
ベンチレータの設定がわからない。という人々。。。
それよりもベンチレータの構造や仕組み、患者がどのように苦痛を感じるのかを知ってもらうこととして
ナースや医師にベンチレーターをくわえて吸ってもらうことから始めなければ何もわからないことがわかりました。
換気力学って習ったかな?
「呼吸の生理」を書いている有名な著者ウエストがまえがきで
「換気力学ほど難しいものはない。だから・・・」と、換気力学の説明を他の類似する教科書とは違い、本の真ん中に換気力学の解説を持ってきたことを説明しています。
医師もナースも、そして自分の基礎教育も振り返って考えると
換気力学を基礎知識として、応用できる形で学んできていないことを知りました。
スタッフナースって実はトレンド好き?
呼吸療法認定士としてスタッフのナースの傾向をみたときには、
目先のケアに進みがちです。
たとえば、
「本当にそのケアは必要ですか?」
エビデンスを元にみるとそのケアが有効でないばかりか、「やらないことにより他に有用な時間を捻出できませんか?」ということもありました。
アウトカム(成果)がありますか?
丁寧にアセスメントを行い患者に何が起こっているのか?
何が生じてくると予測されるのか?基本的なことですが
それこそが大事で、業務やルティーンワークで本来すべき呼吸ケアと
あまり効果がないと思われるケアを振り分けることさえも
出来ていないのではないかと思いました。
呼吸療法認定士として大事なことは何だろうか
呼吸療法認定士として必要なスキルを患者に還元し、周りのスタッフへ啓蒙できることではないだろうかと考えています。
呼吸ケアに関連する人は多くても
呼吸ケアを専門に行っている人は医師を始め少ないということ
呼吸ケアの格差を埋めるべく患者指導以前に医療者への啓蒙が必要だと考えています。
呼吸器専門医は少ないのに、呼吸器疾患患者は増えている
さて、
ご存じでしたか?米国では、パルモナリストという呼吸器専門医が集中治療管理をしています。
日本では1968年東北大学医学部附属病院に集中治療室が作られ、その後各地に集中治療室が作られた背景からでしょうか
麻酔科から集中治療学が分化し、麻酔科から集中治療を担う医師らが多く存在します。
現在、麻酔科医師の不足により手術が満足にできないところもあります。
でもそんな麻酔科医師よりも呼吸器専門医はさらに少ないのです。
特定集中治療室は全国の集中治療室中の3割、内科系呼吸器系集中治療室はさらに少ない
そして、日本では、ほとんどが救急系集中治療室で内科系や呼吸専門の集中治療室はとても少ないのです。
世界死亡原因の第4位が慢性閉塞性肺疾患COPD、日本でも第7位(男性)です。
日本では禁煙の取り組みが遅れたため、今後、喫煙者の高齢化とともにCOPD患者が増えることが予想されています。
このような状況から、これからたくさんの呼吸ケアのスペシャリストが必要とされるでしょう。
呼吸療法士は認定資格で特別な専門職ではない。しかし、これからの私たちの仕事
呼吸療法認定士は、米国呼吸療法士(Respiratory Therapist RT)私は、発足を考えてきた医療者の多くが現在の医師不足やコメディカルの状況を予測し、呼吸器のスペシャリストが必要になることを考え試行錯誤で作成された資格だと思っています。
呼吸療法認定士制度が他の認定資格よりも簡単にとれてしまうなどシステム的には問題が多く残されていますが
やはり、待っている患者がいる以上、私たちが力をつけ、エビデンスとなるものを作っていくべきではないかと思うのです。
呼吸療法認定士として身につけた知識を自己満足で終わらせず
是非還元するために使ってほしいと思います。